外は寒そうな夜だった。だが窓の中は明るく暖房がよく効いている。テーブルの上に、中にタオルとティッシュを敷いた菓子箱があり、そして三羽の雛が眠っている。白くそこだけやけにほっそりした首を伸ばした三羽は目をつぶって、上から見ると伸されたようにへたりと横たわっている。何の鳥だか知らない。このような山の中にはいろいろな野鳥が棲んでいるとみえる。
女は男を見た。男はタオルを首にかけ黙って缶ビールを飲んでいる。押し黙って、何か集中しているかのように。それはまるで災害を放映するテレビのこちら側で、緊迫した状況に、すこし眉をひそめつつもビール飲み飲み見てでもいるかのように、部屋の一角を見ていた。
ねえ、と女は声を掛ける。男は黙っている。彼の見つめる先には、三人の男が横たわっている。彼等は皆ごく普通にカジュアルな服装をし、背の高さもそれぞれごく平凡で、一様に静かである。吸って吐く息はわずかに重なり合い、それが一人の人間の呼吸なのかと思う程であったり、また、ああやはり三人だと思う程であったり。
女は床に跪いて、ソファの後ろから背もたれに抱きつくようによりかかり、男の方を見ていた。男はソファに座ったまま、あいかわらずちびちびとビールの缶を傾けている。そして何も言わない。時折暖房のファンモーターが加速する音がし、男の首にかけたタオルを風が揺らした。
目覚めないかしら。女が言う。目覚めないだろう。男がようやく返事をする。そう、と女はその言葉を信じて安心する。
それからおもむろに、ソファの背もたれと、自分の胸の間に隠すように挟んでいたリボルバーを、ソファの上に置いた。男はそのグリップの茶色い銃を見る。それは女の体温を吸ってわずかに温かいように思えた。
男は拳銃を手に取る。弾は六発だ、と男は心で思った。女も同じ事を考えた。それから男は、隅に転がっている男達のうち、適当な一人を引き寄せ、仰向けにすると、銃口を頭蓋骨に向ける。
ざん、と音がした。少し位置を変え、先程の位置と体の中心線に線対称に、打ち込む。それから次。同じように、左右の額にざん、ざんと打つ。
そして最後。一発目の音。そして二発目。
だがふと女は男の顔を見る。それまで同じ間隔で炸裂していた銃声が、最後の一回を残してしなくなったからだ。見ると男は懸命にトリガーを引いていた。・・・最後の一発が不発弾だった。女はふっとため息をついて、立ち上がった。ちゃんと死んでいる。もういい。そう声をかけた。

それから女は、ぼんやりと焦点の合わない目で、意識を外に飛ばした。外は夜だ。冷たい風の吹く夜で、枯草の茂る山道をとぼとぼと歩いて行くことを思った。駅まではかなり遠いが、昨日の車のエンジントラブルでここに閉じ込められてから、歩くより他に方法は無いのだった。ひどく悲しくなった。

部屋を出ようと振り返ると、長いスカートの裾が、低いテーブルの上の菓子箱を払った。その拍子に箱が転がり落ちそうになり、反射的にテーブルの上に抑えつけた。箱の角が女の掌に突き刺さった。
「あっ。」
一羽が飛び出して床に落ちた。
「いたわってやりな。」
男が言った。タオルを首にかけたままだ。このヤクザ男にそぐわない、穏やかな声だった。
「コンタクトレンズをしていないから見えない。」
女は裸足であわただしく部屋を出た。
戻ってくると、部屋の中はぞっとするような匂いがした。落ちた鳥は死んでいた。男はまたソファに座り、タオルを首にかけたまま、飲み差しの缶を手に持っていた。だが今度はそれを飲んでいなかった。
見ると、箱に残っていたうちの一羽も息絶えていた。まだ羽毛の生えたばかりの雛たちは、巣から落ちたまま飛べずに地面を這っていたのだった。つついてももう死んだ雛は動かない。くっとくちばしを持ち上げると、頭を上げたが、手を離すとばたんと首が落ちた。
気が付くと男は立ち上がって部屋を出ていた。隣でベルトのバックルの鳴る金属音がして、着替えているのだとわかった。そして女はまた駅への暗い道をとても具体的に頭に描いた。だが今はもう、その道がいとおしくさえ思った。
出るぞ、早くしろと男が声を掛けた。女は立ち上がるが、ふと思いだし、箱の中の最後の雛を手に取った。雛は手の中で、元気にばたばたと動いている。
広げた羽は一応羽毛が生えそろっているし、もう飛べないこともないのではないかと思った。いやまだ飛べるはずはないけれど。
「これ、外に放そうかと思う。」
そうしろ、と男は言った。窓を開けると、想像以上の冷気が部屋に吹き込んできた。女は思わず身震いする。外で凍死するだろうか?女は思った。だがこの別荘に置いていっても、明日には餓死だ。白い小鳥だった。すっきりとした細っこい喉をしていた。女はこの鳥が羽を広げ暗い空を飛んで行くのを想像した。遙か遙か高く飛んでいくと、雲を突き抜けて太陽の下へ出る・・・そこには既に朝が有った。いつか飛行機で雲を突き破り何もない雲の上の海原へ飛び出した時の、静けさの中に出たような気持ちがした。空想の中にだけ、微かな希望が有った。
そして女はその雛の喉を絞めた。

二人は別荘を出て行った。六つの死体だけが残った。



-The End-

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written by Nanori Hikitshu 2004.8
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