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第二話:存続の危機編.14



「桜木くん。祐天寺会長とバトルしてるんだって?」
にこにこと楽しそうな笑顔を見せて、学生連合執行部の面々はまっすぐ歩いてゆく彼女に声をかける。なんとも情報が早いことである。
桜木さんはいつもの孤高の笑顔をまっすぐ前に向け、返事をしないで通り過ぎていった。
「随分大胆だね。勝算は有るの?」
「私あなたが勝つに2、賭けちゃった。絶対勝ってね。」
ガーリーな感じの、かわいらしいけど微妙なセンスをした同学年の文化祭担当委員がそう言うので、ちらりと流し目を送り通り過ぎる。
おお。と、どよめきが起こった。その目つきが早くも彼女の勝利宣言と受け取られたらしい。
ふと、彼女は足を留める。彼女に関心無さそうに、学生棟のロビーで何か書いている男を見つけ、彼女はそっと近寄った。二年の高崎。去年の桜木さんのように、まだ役職にはついていないが実質的な力を持つ祐天寺の部下の一人だった。桜木女史の行動に、一挙手一投足に、人々はざわめいたが、彼女は全く意に介さない様子。
「お忙しい?」
テーブルに手を置いて覗き込んでみると、彼はまだ書き上がらないレポートと格闘しているらしかった。
「そりゃあもう。」
ちらっと顔を上げて微笑む。まつげの長い、繊細な表情に、韓国人のように並びの良い白い歯が覗いた。桜木さんはそっと顔を寄せ、囁く。その長い髪の先が彼の肩に触れた。
「それが終わったら、ちょっとお時間頂けないかしら。」
「お茶をおごらせて下さるなら、いいですよ。」
首をかしげ、ちょっと甘えたような小声で、彼は言う。
桜木女史はにこりと笑った。
それから彼女は突然、廊下を通りかかった長身の男子学生を振り返った。
「松本さん。ごきげんよう。」
さりげなく傍を通り過ぎようとした松本さんは、ぎょっとして立ち止まった。彼女と直接話したことは無いはずだった。まして、名前など知られているはずもなかった。
「このスカート、LONLONじゃなくて、PARCOで買いましたの。と、祐天寺さんに、お伝えしてね。」
にっこりと優しげに笑う彼女を前に、小心者の松本さんは、思わず隠しカメラを床に落としてしまった。

星のアイコン

桃子は三人の一年生の入部届をゲットした。今年の夏休みは合宿もできない状況だったが、八月一週目の金、土、二週目の月、火、水に五時間ずつ強化練習会、そして、その週の土曜日十三日に、学生連合が来る。そのことを、一年生を含め全メンバーに通達した。皆元気よく了解した。だが、やはりお盆休みは下宿生は実家に帰らねばならない。一年生のようこちゃんは十三日の土曜日に福島へ帰ることになってしまった。
「わかった、気にしないで、帰っておいで。」
「すみません、法事も有るし・・・。」
このままやめずに来続けてくれることを願うばかりである。まこちゃんは来られると言ってくれるが、女の子二人組はいつも一緒に行動していたので、少し不安そうではあった。片方がいないともう片方の子が不安になるのもよくわかる。だが、期待するしかない。
このまま何も問題無くいけば、サークル継続は決定したも同然だった。だが、いついかなる妨害が入るかわからず、東条重美部長も桃子も戦々恐々である。

予定通り、八月の練習会は行われた。場所はいつもの旧ロッカールームである。サークルの継続が決まればまた体育館で練習できるようになるだろうが、この場所に大分愛着も湧いていた。桃子や部長が一から磨き、煙体験装置で煙まみれになり、時には誰かがたまり場にしているようで煙草の燃えかすが散らばっていたりもし、その撃退の為に防犯センサーを設置し(犬の置物で、人が近付くとワンワン鳴く。お金を出し合って西友で二千三百円で買った)そんな思い出のたくさん詰まった小屋だった。

「桃子先輩、今度花火大会行きましょうよ!」
「桃子さんわたし浴衣買ったんです〜」
「いいね!ビアホールへ行って、隅田川!」
「おいおい。一年生はまだ二十歳前だろ!」
一人怒っている野暮は東条重美部長。
そんな感じで、一年の、元気なようこちゃん、おとなしめのまこちゃんは桃子を非常に慕ってくれ、桃子も初めて先輩気分で後輩の面倒を見た。服部君も、図らずも馴染んでしまったか、何故か続けて来てくれている。例会後飲みに連れて行ってやると一生懸命真面目に飲んだ。(その時重美部長は酔っぱらっていて彼が十代だということに気付かなかった)

なんだか、良い感じ。
「桃子ちゃんすごく嬉しそうだね。」
東条部長も機嫌が良い。やっと普通のサークルのように活動ができるようになって、先輩も桃子以上に嬉しいのかもしれなかった。いつまでも、こんな風に踊って、苦労しながらサークルを守って、一年を勧誘して、団結して頑張っていけたらいいのだけれど。
「大丈夫、うまくいきますよ!」
桃子は東条部長を心から応援した。
「うん。信じているよ。」
やっぱり重美さんは立派な部長だ!

何だかんだで強化練習会は終わり、いよいよ三日後、十三日土曜日がやってくる。
「四時からだけど、早めに部室に来てね。遅くとも、三時には全員集合!」
そう言いつつ、桃子は緊張して足が震えそうだった。きっと、人数が揃うぎりぎりまで生きた心地もしないだろうし、四時になるまで何が起こるかわからないので、早めに全員集まっても絶対に安心できそうもなかった。例えば十三日四時に関東大震災が起こったら、確認ができなかったという理由で、フォークダンス部は廃部なのだろうなあ・・・と思う。もちろん、大震災後なんて踊ってる場合じゃないが。
「来られないけど、せめてものお手伝いで、てるてる坊主たくさん作ります!」
ようこちゃんは元気に言う。
「てるてる・・・天気は関係ないよ?」
「でも、ほら、台風が来たりして電車止まったら困るし。」
「うわ。ようこちゃん、良い子!」
桃子は後輩がかわいくて仕方がない。

携帯でえりこにメールをしながら、桃子は東条部長と二人夕暮れのキャンパスを歩いていた。部員、特に女の子は一人で歩いたり女の子二人だけで歩いたりしてはいけないことにしてあるので、最近桃子は部長と二人でいることが多いのだ。一年生と真理子さんはサンダーバード達が守ってくれているし、こういうパターンが自然多くなってしまった。サンダーバードもスポーツが得意な連中だし、意外に頼りになるのだった。
「十三日、えりこちゃんと、吉乃さんと、遊行さんも来てくれるって。」
「そうか、心強いな。」
「ねえ、先輩。遊行さんって、付き合って人いるんでしょうか?例えば世羅吉乃さんとか・・・」
桃子はなにげなーーーーーく、言ってみた。
「え?遊行と世羅さんが??まさか・・・聞いたこと無いなあ。指導部長同士ってだけじゃない?」
部長は思いも寄らなかった様子。そりゃ、重美部長に聞いたのが悪かった。
だが、同じ質問をえりこにしてみても、実はやはり同じ反応だった。
「遊行さんに彼女?いないんじゃない?全然そんな人がいる風に見えないよ。(ё。ё)?」
だそうだ。
だとしたらじゃあ、遊行さんの方も桜木さんに対して全く脈無しとも言えないのかもしれない・・・。だからこんなに律儀に杉並大に来てくれるのだろうか。だって、多分、ここを追い出された遊行さんにとって、この大学は決して居心地の良い場所ではないのだ。後輩に頼まれたからと言って、渉外部ならともかく指導部の男の先輩がここまで頻繁に他大学にまで出てくるなんて、多少なりとも桜木さんのことが気になっているからなのかもしれない・・・。 世羅吉乃さんはえりことかなり親しいし(えりこちゃん指導部入り内定疑惑)、彼女の方ならば頼まれればお盆にわざわざ他大の面倒を見に来てくれるのはわかるけれど。
いや、でもその吉乃さんのことが好きだから遊行さんもくっついてきてくれている可能性もまだ捨てきれない。桃子はうーんとうなりながら、あれこれ思い巡らせていた。
「とにかく、ゆっくり休んで、土曜日に備えよう。何かあったらすぐ連絡して。」
部長は印籠をかざすようにPHSを突きつけてきた。桃子は我に返って思わずくすりと笑った。
・・・これが全然繋がらないんだな、部長のピッチは。そう思って。



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アイコンSimple Lifeより
written by Nanori Hikitsu 2005
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