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第二話:存続の危機編.9


さて、期限ぎりぎりまで妨害されることを予測した我が杉並大学フォークダンス部一同は、一度退部した鳥越、恩田、本田、庄田が復帰したことも秘密にし、極秘・「打倒学生連合」対策委員会本部を設置した。まず連合のサークル部門担当桜木女史を陥れ、連合を根幹から動揺させる。そして執行部が汚い手を使ってフォークダンス部を潰そうとしたことを全学生に暴き、会長の辞任を要求する。これでおおまかな話は決まった。
「とはいえ、あんまり現実味のない話だね。」
依田さんはあいかわらずだ。
「ええ〜。水を差さないで下さいよ。」
桃子が不満の声を上げる。
「じゃ、何をどうすんの。こっちにはそんな力無いんだし。」
むむむ。そうなんだけれど。
「会長が不正行為をしている証拠とか、そういったことは部下をつつけば出てくるんじゃないですか?」
「鉄壁の桜木ちゃんを懐柔するの?どうやって?」
むむむ。それも難しそうだが・・・。
「桜木さんの弱点とかって無いんですか?」
桃子が依田さんにすがりつくような目を向けると、依田さんは笑って肩をすくめた。
「僕の友達は桜木ちゃんのおっかけしてるけどねえ。」
「あわあわ。会わせてください!」
「まあまあ、落ち着けよ。桃子ちゃん。」
東条重美部長はやる気満々の桃子に半分呆れているようだった。
だがスピーディがモットー(あるいは変わり身の早さがモットー)というサンダーバード達が、「僕が教えたと知られたら怒られるから、僕の名前は出さないでくれよ?」と言う依田さんの友人、松本さんという人を見つけ出してきた。松本さんは依田さんのように背の高い男性だった。
「その懐の物を見せてくれませんかね。」
突然あやしい下級生達にわらわら取り囲まれて、松本さんはひえーとすくんでいる。だがなにしろ好奇心の鬼と化した学生を止めることのできるものは無い。

早速、彼が慌てて死守しようとしていた「Yuko ★ Sakuragiノート」を「お願いして」見せて「もらった」。わくわくして皆で覗くと・・・。
「げげ!このべたべた貼ってる写真は一体・・・」
「木の陰とかから撮ったんだよ。」
「うわ、盗撮。犯罪〜」
「ちょっとちょっと、なによこれ?!桃子ちゃん見て、この髪の毛って・・・」
「うるさいな。帰るよ?」
「わわ、ごめんなさい!黙ってます!」
桃子も真理子もサンダーバード達も興味津々で、生唾を飲みながら、そのたくさん書き込みの入ったノートを覗き込んだ。

「○月×日晴れ。桜chanは水色のスカート。(○月△日にLONLONで買っていたものか?)今日も清楚でさわやか。髪・・・巻いてない(三日連続)。サンローランのハンカチを持っていた。夕方からバイトらしい。(荻窪・家庭教)」

・・・・・・
「あの、その、何でこれの存在を・・・。」
食い入るようにノートを読んでいる桃子達を松本さんが一生懸命覗き込んだ。
「・・・いや、すばらしいですよ。ここまでの記録ノートを作るとは、一流の桜木ファンですね。尊敬しますよ先輩。」
庄田が目を光らせていた。
「・・・人間として最低じゃん?」
真理子さんはじっくり読みながらも白い目を松本さんに向ける。
「そ、そんな悪いことはしてないですよ〜。他の人が見ちゃいけないところまでは覗いてないし。ノートを人に見せるつもりも無かったし・・・。髪の毛はたまたま、桜木さんが掲示板に掲示物を貼り付けているとき画鋲に一本引っかかったのを見かけて、持って来ちゃっただけで・・・」
「黙っててあげるからさ、ちょっと協力してくださいよ。」
恩田は恐ろしい笑顔を浮かべて松本さんに迫った。
「協力って?」
「だから、桜木さんの弱点を教えてくれるとか。」
「そんな!彼女は完璧です。弱点なんて無いですよ。それに彼女をどうするつもりなんですか!!知っててもそんなこと教えませんよ。」
松本さんは本気で怒ったような口調になった。
「あ、知ってても、って、ひょっとして有るんだ?弱点。」
「ななな無いですって!」
「桜木さんがこのノートをご覧になったら、とてもショックをお受けになるだろうなあ。」
「ひ、ひどい!返してくれ。あ〜〜。誰か何とかしてくれよ〜〜。」

「あの、私たち批難してるわけじゃないのよ。別に迷惑かけない限りにおいては、一途に一人の人を追いかけるってのもまあいいんじゃない。彼女のこれまでの経歴とか、教えてくださいよ。きっと詳しいんでしょう?」
そう言いつつ一番批難している鳥越真理子さんは、懸命に松本さんをなだめた。
真理子さんがこの中では比較的まともに見えるし、この謎の後輩達にも何か事情がありそうだと理解してくれたのか、やっと松本さんが教えてくれた話は、こんな内容だった。

郊外のお嬢様学校、白藤女子学園に通っていた桜木優子さんは、高三の秋、なんと突如杉並大生と駆け落ちした。一日で連れ戻されたとはいえ、優子さんの元国会議員のお祖父様、財界の重鎮のお父様は怒り狂い、その相手の学生を退学させるよう杉並大に圧力をかけ、またたまたまこの大学で教授をしていた優子さんの大叔父様からも、男を処罰する動きを起こさせた。ところが、学生の処分に関してそれはあまりに一方的で不当な弾圧であったため、当時の学生連合会長は反発し、事実関係を確認した結果、この学生に問題は無し、という結論を下し、大学の決定を覆したのだと言う。
「駆け落ち、っていうより、桜木さんが見合いをさせられそうになって、思い詰めてその大学生のところに押しかけちゃった、ってことらしいんだな。恋人同士だったわけでもなく。」
はああああ。
聞き終えると、全員ため息をついた。
「まさか、あの桜木さんにそんな過去が有ったなんて。」
「そうだったの・・・何だかかわいそうねえ。」
真理子さんが言うと、恩田がええ、と不満そうな声を上げた。
「敵に同情するなよ。」
「でも、ああ見えて情熱的な女性だったんだなあ。」
東条部長までも気が抜けたような声を出した。
「相手の男は?学年からするともう卒業したのかな。」
「いや、それが、結局大学をやめて、よその大学に行ったらしいよ。こうなっちゃあここでは居心地も悪いだろうし、桜木教授にも睨まれてるし。万葉集を専攻しようとしていた学生らしいから、桜木教授に睨まれちゃあな。」
桜木教授はたまにテレビにも出ていて、万葉集における枕詞と農耕儀礼の関係についてなどの論文を書いた学者だ。
「ふうん。それじゃあ、恋破れても忘れがたく、白藤をやめて杉並に来ちゃったのね。」と真理子さん。
「お。文学的。」と庄田。
「どこが??」と本田。
「彼女の方も、こんなスキャンダル起こしちゃあお嬢様学校にいられないでしょう。不埒な学生もいなくなったし、ここ杉並大なら桜木教授の監視が有るからってことで、親に許されて出てきたんじゃないかなあ?」
松本さんは目をつぶってうんうんと自分の言葉に頷きながら言った。
「そうだったのかあ・・・。」
さすがに桃子もちょっと桜木さんが気の毒になってしまった。
相手の男は・・・この杉大をやめて、よその大学に行ったのか。そして今も万葉集を学んでいるのだろうか。桜木さんを捨てて・・・。そう思うと、ちょっとその男が憎たらしくなった。
「で、どこの誰なのよ、その万葉集男は。」
「相手までは僕も知らないなあ。関東にいるのかどうかもわからないしね。だから、桜木さんをいじめないでくれよ。」

「我が背子に恋ふれば苦し暇(いとま)あらば拾ひて行かむ恋忘れ貝。←桜chanが日本文学概論の教科書に線を引いていた歌。」

松本さんはノートを取り返すと、大事そうにカバンに入れて、去って行った。



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written by Nanori Hikitshu 2004
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