ラウンドの女王編p9

夕食後、3女(3年女子)がお風呂から上がるまでの間、えりこ達2女は植津の部屋に集まっていた。そして当然始まるチヨコの悪口タイム。あの子ちょっときつすぎるよね、と皆口々に言う。そんなに陰険な子はいないのだが、皆チヨコが気の弱い春香さんを泣かせた事が許せないのだ。えりこはお風呂セットを抱えてぼんやり皆の言うことを聞いていたが、やはりいたたまれない。チヨコの傍にいたのに暴走させてしまったことももちろん責任を感じていたけれど、えりこさんはどうなんですかと問われて、あの時自分は何と答えられただろうとずっと考えていたのだ。アナクロの懐古主義。その通りだ。だけど差別的というのはどうだろう? 彼女はジェンダーギャップのことを言っているのだろうか。彼女はやたらと女の子らしい格好をしているから、ジェンダーフリーとかフェミニズムとかいったこととは対極にいるものだとばかり思っていた。ひょっとしたらそうじゃなくて、彼女は本当に自由な人で、女の子だからとかではなく純粋に可愛いものが好きだから可愛い格好をしていて、もし仮に彼女が男として生まれてきていたとしてもためらわずにスカートを穿くのかもしれない。それならば、女が男の踊りをすることだって、彼女が気に入ったのであれば、認められなくちゃならない。
 そんなことを言われたら――えりこには何も言えない。
「チヨコちゃんは自分に正直で、いつも自分らしくいたいんじゃないかなあ……」
思わず言うと、植津が隅っこの方にいるえりこの方を見た。
「でも、サークルは一つの社会でしょ。ルールが有るんだから。ルールが嫌だって言うならそこにはいられないわよ」
「うえちゃんたら、そこまで言わなくても」
めぐがたしなめるように言った。
「こんなこと小学生だってわかるわよ。あの子いつも自分が自分がって。一緒に活動するのが嫌になるわ」
自分が自分が……えりこはその言葉に、歌子姫が言っていたことを思い出しはっとした。
「自分が自分が、っていう踊りは美しくないわ!」
彼女はそう言ったのだ。
「えりこは何かというとチヨコの肩を持つよね」
いやそんな事実は無いはずだが、植津はため息をつき困ったようにえりこを見た。
「もしえりこが指導部長になったらそうやって部員個人の自由を尊重した例会を目指すんだ?」
とうとう来た! 来年度の役職会議! いや、例会の運営方針なんてえりこはこれまで考えて来なかった。今の指導部のやり方に不満が有る訳ではない。だが……言われてみるといろいろと満足していない面が有るのは確かだった。
「うん……そうなのかも、しれない」
「えりこ吉乃さんと仲良いから、もっと違う考えなのかと思ってた。でも、あんたやたらと新しい事やりたがるし、他大の人と踊るのも好きだし、うちの伝統的な指導部を解体したいと思ってるの?」
「そんな非難がましい言い方しなくても……」
「別に非難してないよ。私と考え方が違うんだなって思っただけで」
「植津はかなり保守的だよね」
菊地じゅんが言った。
「そーよ。私は五十年続く伝統を守って行くことこそ指導部の使命だと思ってる」
「でも指導部ってサークルに有る踊りを正確に下に伝えることだけが仕事じゃないよね」
「それはもちろん」
「他のサークルとの交流も大事だと思うけど」
「何? 指導部が?」
「他からの刺激を受けて研鑽しないと技術は衰える一方じゃない? 指導部は部員の踊りの質を上げる使命もあるんじゃないの? イベントステージで踊る時、伝統的な振り付けを舞台用にアレンジして、時には一から新しい振り付けを考えたりするのも指導部よね。植津にできるの?」
「うーん……」
「そういえばちょっと前にアタナスが来日した時は、当時の指導部が講習会に行って新しい踊り1曲うちに入れたんだってね。あれは画期的だったんじゃないかしら。あの指導部がよ」
菊地じゅんは長い髪を下ろして左肩に垂らした姿で、首筋から鎖骨にかけて掌で撫でつけながら言う。2女で一番大人っぽい子だ。浪人しているからえりこ達より一歳年上のはず。
 アタナスというのはマケドニア人の有名なダンス講師で、時々来日して、日本各地の社会人フォークダンスサークルが講習会やパーティを開いている。彼が何十年も前に日本に紹介したイバニッツァとかコパチカ、ショプスカ・ペトルカとかその他いろいろな曲が今でも各学生サークルに伝わっているのだ。その事実を知っている部員はほとんどいないが。
 そして大抵の大学民舞サークルは、数十年前に自分の部に取り入れた100〜200曲を代々踊り、下の代に伝えていて、新たに曲を入れることはほとんど無い。そこが社会人サークルと大きく違う。福徳・大野のような保守的なサークルならなおさらだ。
「うん、それで?」
「保守的と言っても上の指導部も代々いろいろ悩んで運営してたんじゃないか、っていうこと」
「そうじゃなくて、それで菊地はやっぱり指導部に入りたいって思ってるの?」
植津が聞くと、菊地じゅんは肩をすくめて見せた。
「あんた随分と指導部に執着してるわね。私は、この際だから希望言っとくけど、春のワールドランドステージ、あれがやりたいの」
さらりと言って、知らない人には何の事だかさっぱりわからない言い回しだが、簡単に言うと彼女は渉外部長になりたいと言っているのだ。福徳・大野は人数が毎年四十数名とフォークダンス部としては少々大所帯で、その分いろんなイベントに出ることができる。ゴールデンウィークには毎年千葉の「冒険! ワールドランド」という有名な地方テーマパークのアマチュア団体参加プログラムに応募している。楽器演奏とか、ジャズダンスとか、いろんな団体が申し込み、オーディションに受かった所だけが野外ステージで三十分の時間をもらってデモできる。審査は厳しいがフォークダンスは世界の民族文化を紹介し体感できるテーマパークの趣旨に沿っているのでかなり高い確率で通る。このイベントに参加するにあたって部員をまとめ計画を立て、ランドと連絡を取り打ち合わせをする総責任者が大野女子大の渉外部長と毎年決まっているのだ。それを菊地じゅんがやりたいと。もちろん他のイベントに関しては渉外副部長、福徳の渉外部長、渉外副部長で分担する。
 まあこの辺りはえりこもよく知らないのだが、保守的な指導部とどんどん外に出て新しい事を企画していく渉外部は対立する傾向が有って、それが早くも先程の植津と菊地じゅんの軽いやりとりに端的に現れているのである。
 それからは植津と菊地じゅんの指導部の役割とは何かを巡る語り合いに話は終始して、えりこは蚊帳の外のまま、やがて1女の高槻るりあちゃんが3年生、お風呂上がられましたと呼びに来て、第一回目の2女役職会議は終わった。

 その夜福徳が飲み会で盛り上がっているのを横目に、えりことめぐはダンスシューズを持って体育館へ向かった。もうお風呂に入ったので本格的に汗をかきたくはないが汗をかいた場合はまた入浴すればいい。その辺学生というのはてきとーである。カエルの声を聞きながら、田んぼの脇の灯りも少ない夜道を歩く。めぐは明日セルビアンメドレー#2のコールが有る。えりこはゴニーツァ。その練習が有るので体育館にいる指導部にこれから見てもらう。えりこは何も言わずとぼとぼ歩いている。めぐも静かに歩いている。えりこは、来年度役職に就くという自覚の有りすぎる植津や菊地じゅんの話を聞いて、何も考えず踊りが好きだというだけで指導部に憧れた自分の野心が随分ちっぽけなものに思えて少々落ち込んでしまっていた。まあ、自分はそんな器の大きい人間ではないよなあと思う。そんなに踊りが上手いというわけでもないし……。人望も無いし。
「えりこちゃん、元気無いね」
めぐが静かに声をかけてくれた。
「え、そうかな?」
「あの二人は前々から役職のこと考えてたしね」
「……あ、そうなんだ」
「植津ちゃんは瞳さんに、じゅんちゃんは順子さんにいろいろリサーチしてたよ。えりこちゃんあんまり飲み会来ないから知らなかったかもしれないけど」
新見瞳さんは指導副部長、北野順子さんは渉外部長でそれぞれ華の有るお方だ。
「そっか、みんな陰で頑張ってるんだ……でも植津ちゃんはなんで指導部長の吉乃さんじゃなくて、瞳さんに?」
「だってえりこちゃん吉乃さんと仲良いから、あの子なりに遠慮したんじゃない? もし吉乃さんに相談していて、あなた達二人が喧嘩になったりしたら吉乃さんも立場上困るだろうし」
「喧嘩って……そっか……」
「あっ、でも勘違いしないでね。うえちゃんはあれですごくえりこちゃんのこと好きみたいだよ。えりこと役職を巡って争うことになるとつらいって言ってた」
「植津ちゃんが……??」
いや、そんなに問題にされていないようにも思うが。さっきの役職会議の様子を見た誰もが、植津は指導部長に相応しいと思っただろうし。
「もーそんな暗くならないの。えりこちゃんはラウンドの女王と呼ばれた女じゃない。自信持って」
「あ、ありがと……」
何だかよくわからない励まし方をされた。だがめぐは本当に優しい子だ。

 体育館の中は明るくて男子数名とまだお風呂に行っていない1女がいる。それから両大学の指導部が全員揃って話し合いをしている、それから女の子が一人……あれ?
「えりこさん!」
にこにこっと嬉しそうに駆け寄って来た女の子はなんと、歌子姫じゃないか。なんで歌子姫が?!
「あ、私のこと、憶えてらっしゃいます?」
「え、ええ、もちろん……」
「あ……えりこさんの同期の方ですね。川端恵さん。私華栄女子2年の相川です。以前飲み会で一度……」
「あ、はい。川端です。歌子姫ですよね。こんばんは」
歌子姫はちょっと恥ずかしそうに頬を赤らめた。な、何かいじらしい! っていうか、この間歌子姫が大野女子大の体育館に現れて、皆の前で突然キャバリート・ブランコを踊ってから、うちのサークルで彼女を知らない人はいない。そう、このお人は歌子姫ですねとニックネームで呼ばれて恥じらう方ではないのだ。よく考えると。
「歌子姫、合宿に遊びに来て下さったんですか?」
めぐは基本いい人なので、よそから遊びに来てくれる人は大歓迎なのだ。悲しい事に、実はあまり来客を歓迎しない部員も多いのだけれど。
「ええ、実は大野とほとんど同じ日程で、S大・華栄も近くで合宿してるんです。ロッジ小池っていう所で。今来たらこちらの指導部の皆さんが、えりこさんもうすぐ来ると思うよって、仲間に入れて下さって」
見ると吉乃さんや遊行さんや皆さんにこにこしてこっちを見ている。歌子姫と何か話していたのだろうか。
「あ、でも気にしないでコールの練習なさって下さい。私見てますから」
「えっ?! 見てるの?!」
えりこは思わず失礼なことを言ってしまって慌てて自分の口を塞いだ。これでは迷惑だと言ってるみたいだ。
「ええでも本当、お気になさらず」
そんなこと言われても気になるに決まっているではないか! めぐは遠慮せずセルメ(セルビアン・メドレー)の練習を始めたが、えりこは資料を床に置いて歌子姫の方に戻った。
「あの、歌子さん」
「歌子姫って……よかったら呼んで……あの、ニックネームなんです」
「う、歌子姫、私に何か用が有るんでしょ? 先に聞くけど」
「ああ、実は、ラウンドダンス、私コールが有るんですけど、今回いまいちインスピレーションが湧かなくて、えりこさんの踊りが急に見たくなって。大野女子も近くで合宿やってるって聞いたから思い立って走ってきてしまいました」
ふと彼女の目付きが真剣になって、えりこは息を飲んだ。
「え、ええと、私合宿ではラウンドのコール無いの。明日ゴニーツァ(ルーマニアの踊り)で、明後日ガンキノ・ホロ#2(ブルガリアの踊り)、あとはキャバリート・ブランコ(メキシコの踊り)……」
「それが終わってからでいいから、一緒にラウンドしない?」
何だろう。えりこのことをライバルだと言ったその口で、一緒にラウンドしない? と誘うのか。
 何だかわからないがいいですよと言ってしまった。まあ、せっかくうちに遊びに来てくれたんだし、他大の子と一緒に何か練習するのも楽しいかもしれないと思って。
 えりこがコール練をしている間、歌子姫は一切邪魔をしなかった。座ってゴニーツァのテンポのいい曲に合わせて踵を踏んでいたり、えりこが指導部に指導してもらっているのを一生懸命聞いていたり、それからふいに全然違う踊りを踊ってみたり。一人で寂しいんじゃないかと思って、とうとうえりこはコール練を切り上げた。指導部のOKは出たし、キャバリートはまた昼間ちょこちょこやる方がいいし、合宿一日目だからコール練ばかりしなくてもいいかなと思ったのだ。
「ラウンドって何するの?」
えりこが歌子姫の方へ来て声をかけると、彼女はぴょんと立ち上がった。そういえば練習着姿の歌子姫は初めて見た。きれいな髪は右耳の下で一つに結ばれている……。
 民舞ではこの髪型をする女子が時々いる。後ろで一つに結ぶのが一番ポピュラーだが、髪が或る程度長くなるとターンした時この一つ結びが凶器になり自分の顔面や隣の人をすごい勢いで直撃するのである。そこで考え出されたのがこの横結び。これなら肩で食い止められるしぶつかり難いのである。隣の人と両肩を組む「Tポジション」というホールドの踊り以外はやり易い。ただ、普通右利きの人は自分の左耳の下で結ぶ方が結び易いので大抵そうしているのだが、歌子姫は右耳の下で結んでいる。えりこはピンときた。ラウンドダンスをよく踊る子はこれをする。男性とクローズドポジション(お姫さまと王子様のダンスパーティなどのような組み方)で向かい合って組む時、男性の右手が女子の左肩甲骨を押さえることになるので、女子が左側に髪を垂らしていると男性が髪を掴んでしまうことがあるからだ。
歌子姫はにこっと笑って、
「コールはムーンリバーなんです。ティファニーで朝食をの。でも、えりこさんは何が好き? えりこさんの好きな踊りを見た方がいいと思うの。むしろ今は自分のコール前だからムーンリバーは見たくないの。えりこさんのムーンリバーをそのまま真似したい訳じゃないのよ」
「私は……"There's a kind of Hush" かな。去年指導部の先輩のコールを見て好きになって、今年私コールしたの」
「『見つめ合う恋』ね! カーペンターズ私も好き。アン・マレーはえりこさん好き?」
「ア、アン・マレー? 何それ」
「カナダの歌手。"Snow bird"を歌ってる歌手の人よ」
「ああ、へえー。"Snow bird"私も好き」
「"Could I have this dance"は?」
「え?」
「これもアン・マレー」
「うちの大学には無いなあ」
「関西の大学ではよくやってるんですけどね」
そう言って驚いたことに歌子姫は突然歌いだした。
 ……何て綺麗な声!えりこは聞いたことの無い曲だったが、三拍子の美しい歌で、聞いていると、歌子姫の長い睫毛、じっとえりこを見つめる黒い瞳、白い歯がきらきらしているのが目につき、彼女の声の低い音程が温かく甘く感じられ、えりこはくらくらした。
「……きっと綺麗な踊りなのね」
「やってみます?」
「え?」
歌子姫が左手を伸ばしてきてえりこの右手を取った。彼女が男性パートをするらしい。……いやだからこの場合、えりこが向かい合った歌子姫の右肩に左手をかけると、彼女が右肩に垂らした髪を掴んじゃうんだってば。彼女が男性パートになっちゃったら。
 歌子姫は歌い出した。彼女のひんやりした手に導かれ、バタフライポジションから、開いて、近付いて、そのままくるんと歌子姫の懐に包み込まれ、さがって、またくるんと回って……歌いながらえりこをリードする歌子姫の熱心なまなざしがすぐ近くに感じられた。そしてえりこは彼女の肩が想像以上に華奢なことに何より驚いていた。踊る時は女子同士がしっと組むことも有るけれど、Tポジションで組んでアルメニアのジョ・ジョンでも踊ったりしたら、この人はぽきっと折れてしまうんじゃないか。そしてえりこの左手に落ちかかって来る歌子姫の長い髪、その髪からはシャンプーの良い香りがして……。
 だけど嘘みたい、なんて私達気が合うの? トワールにボックス、トウィンクル、ディップ、こんなにフィーリングの合うパートナーは初めてだった。スムーズに回転が続く。ああ歌子姫が言っている事がわかる。嬉しい! 何だろうこの喜びは。自分の心から湧き出る歓喜の声にえりこが酷く動揺したその時、レフト・ターニング・ボックスかなこれは。その足がもつれて、えりこは思わず手を放した。ふらふらっと歌子姫がよろけて、すぐ近くに迫っていた壁に手をついた。彼女は歌を止め、にっこりと笑った。その笑顔を見て、えりこも彼女が楽しかったのだと知った。いや改めて想像しなくとも。
 さっきカップルを組んで一体となり、一つの曲を共有した間、二人の気持ちが通じて、本当に本当に楽しい時を過ごしたことを二人とも知っていた。そう、二人とも知っているということ。これこそがフォークダンスなのだ。その時間が終わってしまったことが悲しくなる程に。えりこは胸の奥に感動を覚え、息が詰まった。
「……やっぱりすごいですね、えりこさん」
歌子姫がとても小さな声で、息をやっと吐き出しながら言った。
「この曲初めてなんて信じられない。私歌っててキューも出さなかったのに」
彼女の目は気のせいか少しうるんでいるようにも見えた。キューというのはラウンドの動作の指示で、リーダーが口頭で出す。いやそんなもん一般大学の民舞の人間に出されても理解できるわけがないのだが。
「ううん。歌子さんがすごく上手にリードしてくれたから」
歌子姫は手首の返しで次の動きを予告し、軽く丁寧にえりこの腕を押したり引いたり、連手を引っ張ったりすることでトワールやターンを促したり、動く方向を示したり、常にとても適切な指示を絶妙なタイミングで出してえりこを動かしていたのだ。そうしたらえりこが歌子姫と体の向きを平行にしたり対称にしたりすれば、ちゃんと踊りになる。もちろんそれなりのセンスや相性も必要なのだが。えりこはそこを歌子姫に認めてもらえたということだ。それってすごく嬉しい。
「えりこさん、私」
歌子姫が控え目な声で、しかしうっとりとした目付きでえりこの方に寄って来て、えりこの指に指をからめてきた時、咳ばらいが聞こえた。えりこは咄嗟に我に返って、そちらを見ると、なんといつからそこへいたのか、同期の植津が立っているではないか。
「あ、うえちゃん……」
「えりこ、コール練はもう終わったみたいね。めぐもとっくに宿に帰ったし、今2女で飲んでるから、早く来なさいよ。話し合いもするわよ」
「うん……ああ、ごめんごめん。ちょっと待って今友達と」
「あ、そう。私達の話し合いより大事なお話があるんだ」
「な、何……言葉に棘が有るけど……」
何だか植津は不機嫌だ。いつもそんな冷たい事言う子じゃないんだけど。植津がじっとえりこと歌子姫の繋いだ手を見ているのに気付いて、えりこはあわてて連手を離した。
「近藤、矢部、S大の飲み会に行きたいって言ってたでしょ。あそこにいる1女も連れて、歌子さん送っていきなさい」
「え?!」
突然近くでバスケをしていた2男が指名された。彼女の有無を言わさぬ命令にえりこを含め一同は圧倒され、何故か言う通りに、近藤達は歌子姫を華栄の合宿所まで送って行った。
 歌子姫は最後に何か言いたそうだったが何も言わず、えりこにおやすみなさい、とだけ言って、素直に帰って行った。
 まるで彼女は突風のようだった。夢みたいな時間だった。

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written by Nanori Hikitsu 2012
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